日頃妄想していて思い付いた短いのが出現します。
□いつかのはなし(新一←コナン)
小さな彼のジャケットの端を引き留めるように掴む。情けなく膝が崩れた為に目線が同じ高さだ。
幼い顔が振り返りながら精一杯大人びた表情を浮かべ言い聞かすように言う。
「俺は蘭が好きだよ」
「あぁ、知ってる」
「そして俺は新一も好きだ」
「…あぁ」
「元に戻れば、二人は幸せになれる。二人が好きな俺にとって、こんな嬉しいことはないよ」
「でもコナ…」
「例え、そこに俺が居なくとも」
そんな寂しい事を言わないでくれ。
聞き分けのない仕草で腕を伸ばす、これではどちらが子供か分からない。
だって、このまま行かせたら、彼は消えてしまう。
宝物を守るように抱え込むと彼は困ったように笑いながら、緩く腕を突っぱねる。
「大丈夫、全て元に戻るだけだから。新一は何も失わない」
「失うよ、お前が居なくなる」
「…新一、蘭が待ってる」
「でも…っ」
一瞬、首筋がチクリと痛んで、気が付くと地面に這っていた。遅れて麻酔を打たれたのだと理解する。
「コ…ナン」
「おやすみ、新一」
薄れゆく意識の中、遠ざかる後ろ姿が見える。
それが滲んで、涙が出た。寂しさと否定したい安堵から。
コナンは泣き笑いを、こちらに向けて存在を示すように一度大きく手を振った。
□名探偵の虫眼鏡(快斗×コナン)
「名探偵と言ったら、これでしょー?」
と茶化すように放られた虫眼鏡の分厚いレンズに触れる。
機能を果たすために凹凸になったそれは透明で、だがピントが合わないと何も見ることが出来ない。
近づけすぎて眼鏡のレンズと擦れ合いカツンと軽い音。
空にかざしてみる。
逆さまの景色。
「おーい、一人で遊ぶなよー」
逆さの空に逆さで宙吊りの快斗が見える。
円のフレームを取り払う、途端に彼の全身が視界に飛び込んでくる。
「不思議だなぁと思って。」
「へ?何が?」
「これを使えば何だってよく見えるけれど実際はこの丸の中だけだ。
まるでこの中だけ独立した世界みたいじゃないか。」
そこを切り取り一時だけ捕らえる事が出来るのだから。
そしてまたフィルター越しに見る世界。
お前を映せば心の中まで映しますか?
お前をを捕らえる事が出来ますか?
「レンズには何が見える?」
「学ランのボタン。…江古田高校って結構凝ったデザインなんだな」
「ん?あぁ、言われてみれば」
どんなにお前の心臓を映しても心までは不可能で。
彼が動いたのかレンズの中は彼の学ランの黒がいっぱいに広がった。
腕を引かれる。額と鼻先に落ちるほんの一瞬の温もり。
そして舞い落ちる彼の声。
「レンズには何が見える?」
「…何も見えない。」
塞がれる口唇。
近すぎだ。
□ネバーランド(コナン+新一+蘭)
最後の力を振り絞って洋館の窓辺に降り立つ。
どうか、この手を取って孤独から開放して欲しい。
あの日から、元の形の戻れないまま、ネバーランドで一人きり。
控えめに窓が開いて新一が顔を出す。
「お願いだ。新一も、こっちに早く」
切羽詰まった様子に彼が痛ましいものを見るような目をする。
「無理だ、もう全て終わったんだよ」
拒絶の言葉に体が震えた。終わってなんかいない。
だって自分は大人になれないままずっと。
「いつまでも、お前だけが変わらないな」
自嘲めいた笑いを浮かべ、同情するように言う。
そうだ、自分ばかりが取り残されて。
「見てご覧、コナン」
彼の腕の中には彼と、何より自分にそっくりの子供。
こちらを不思議そうに見上げていた顔が無邪気な笑顔に変わり、小さな小さな手が拙い線を描いて伸びてくる。
彼は、その様子を慈愛に満ちた瞳で見つめている。
部屋の奥から愛おしい声がして既に母として美しくなった蘭を見た。
そして、ほんの少し、子供と指先が触れ合った瞬間、ガクリと体勢が崩れ、重力に従い、地に落ちる。
運良く植え込みに落ちたようで怪我はない。
新一が窓から顔を出す様子はない、自分に対して随分と薄情だな、と呆れた。
植え込みから、呆然と見上げる夜空は、街中なのにプラネタリウムを思わせる程、星達が鮮明で
眼球の上に溜まったままの涙が、その光を乱反射させる。綺麗だ。
堪らず目を閉じると、熱い涙が頬を伝った。
瞬き程度の短い暗闇の後、目を開くと、自分が窓の外から見ていた筈の蘭が至近距離で、こちらを覗き込んでいた。
状況が理解出来ず、息が詰まる。
「どうしたの?何か悲しい事があった?」
流れる涙を繊細な人差し指が拭う。どう答えたら良いか分からず、曇った表情で黙る。
「ほら、そんな顔してないで。この子も笑っているわ。」
この子、と腕の中の子供を指されて、やっと確かな重みと温かさが伝わる。
安心しきった穏やかな微笑みにつられて、口元が緩んだ。
振り返り窓の外を見たが勿論、誰もいなくて。
何処かで重い扉が閉まる音が聴こえる。
…あぁ。
全てを理解して、また涙が込み上げた。
片腕で蘭の腰を抱き寄せ、二人を力強く抱きしめる。
「…何でもないよ。ただ、嬉しくて、少し、…寂しくて」
さようなら、ネバーランド。
□夏が来た。(服部+コナン)
暑い。
今ある状況について不満を言えと言われたら即、口からその言葉が零れるだろう。
けれど、誰もそんな問いを投げかけないし、何より今は俺と服部の二人しかこの家にいない。
何を好き好んで、こんな真夏に直射日光の当たる縁側に座っているのか理解出来ない服部の斜め後ろに
これまた何を好き好んで気温と比べても尚、熱の高い男の背中に頭を預けている俺がいる。
服部の、うちわを扇ぐ振動が心地良い。
子供体温っていうぐらいだから、こいつはもっと暑いだろうに、特に気に留める様子がない。
「…暑く、ねぇの?」
「…こんなもん、剣道の稽古に比べたらマシな方やで」
「あぁ…防具が…」
「そう、めっちゃアレ、ムサるんや」
風の通りも悪いから汗の匂いも熱気も道場に籠るしなぁ、と笑った気配がした。
気まぐれに吹く風は完全に生温くて、寧ろ身体に纏わりつく感じがくすぐったかった。
会話が途絶える。
さっきから服部の感情が読めない。窺い知ろうと顔を上げると射すような太陽がそれを邪魔する。
仕方なく空が陰るまで、このままでいいかと目を閉じる。
何にも考えたくなかった、理由も無く。適当に体重を誰かに預けて自分自身に軽薄になる。
誰だって、そういう時があるだろう、まだ八つ当たりしないだけ褒めて欲しい。
身体中からじくじくと汗が滲んでくるのが分かる。
頭を置きっ放しだった服部のノースリーブは、そこだけが色が変わってしまっていて
濡れた感触が煩わしく、まだ何とかさらさらな場所を選んで再度、頭を預ける。
すると丸まっていた服部の背中が、すっと伸びて日の光を遮った。
庭の方に目を向けると蝉が鳴くのを止め、情けない線を描いて飛んで行くのが見える。
逆光で服部自身はコントラストが効きすぎたように真っ黒で、今の陰鬱な気分に拍車がかかる。
頭の置き場を失った俺は、きょとんとした表情のまま、立ち上がる服部を見上げるが
彼は、そのままサンダルを引き摺って、庭の奥へと行ってしまった。
座り込みながら、何だかな、と脱力する。暑い、が、そんなのどうでもよかった。
何もかも嫌になってる証拠だ。
目を閉じて思考を止めて数分、自分の上にぬっと陰が降りて、そろそろと瞳を開く。
「ラムネ持って来てやったで!飲むやろ工藤!」
腕には何処から貰って来たのか大輪の向日葵を抱いて、片手にラムネの瓶を2本掴んだ状態で服部が立っていた。
ノースリーブにハーフパンツ、サンダル、何より褐色の肌。
最早、彼自体が夏そのもののようで、お誂え向き過ぎて吹き出す。
何だって、この男は。
「何笑ってんねん、ほら工藤!冷たいうちに、はよ飲めや」
放り投げられたラムネを両手で受け取り、額に当ててみる。
良く冷えていて気持ちが良かった、そしてやっと暑さが本格的に全身に回って来る。
首筋に瓶を這わせながら、その向日葵は何だ、と問うと
「お前、前に学校でハムスターが大繁殖した言うたやん」
食料や、と向日葵を縁側に並べる。
…何も、まるごと持ってくる必要ないのに。
服部が勢い良くビー玉を押し込み、ラムネを盛大に零しながら開ける。
「うっわ!もう半分ないやんけ!」
俺は笑いながらビー玉を押し込んだまま固定し、ある程度経ってから手を放す。
零す事無く涼しい顔をしてラムネを飲む俺を見て、服部は恨めしそうだ。
「ズルいわ、自分。そんな裏技あるなら、はよ言えや!」
「いいんだよ、お前はそれで」
「どういう意味やねん、それ」
お前が羨ましいという事です。
□喪失(キッド+コナン)
予告時間に、ふらりといった気軽さで美術館に現れてみると、
いつも最前列の特等席を陣取り挑んでくる小さな探偵が警官の足元でこちらを窺っていた。
挑発するようにポンポン指先から、バラだのガーベラだの見栄えのする花を出してやれば意を決したように
けれど怖ず怖ずと近付き、コンクリートに散らばる花々を小さな掌で拾い上げ「ほかにも、だせるの?」と首を傾げた。
探偵らしくない問いと幼い仕草が気になったが、マジシャンの性が驚かせろと騒いだ。
「えぇ、勿論。何かお望みの物はございますか?」
紳士を気取った動作で掌を胸に当て、身を屈め小さな彼に視線を合わせる。
ただでさえ大きな瞳を更に見開き、頼りない掌が風に靡いたマントを掴んだ。
「しんいち、しんいちをだして」
息が詰まる。逸れた子供が母親を探している、そんな痛々しい顔だった。
警官達は意味も分からず黙ってしまう。ビル風だけが何とか沈黙を防いでくれた。
「ねぇ、キッド、しんいちがいなくなっちゃったんだ。おねがいだから、だして」
「…無、理ですよ。」
それだけ言うのが、やっとだった。
後から調べ分かった事だが、ある朝、博士の家に必死の形相で彼は飛び込んで来たそうだ。
「はかせ、どうしよう」と拙い口調で何度も繰り返し
駆け寄って来た小さなドクターに跪き「しんいちが、いなくなった」と縋り付く。
賢い彼が頭の中を二つに分けていたのが原因だと彼女は言う。
意図的に新一とコナンの人格を分け、主な記憶は新一に任せ、コナンは基本的に新一に従っていた。
いつしかコナンにとって新一は親のような存在になっていた。
人の人格は記憶に宿るという。
伸び縮みを繰り返した身体、もしくは、その指令を出していた脳が少しずつやられていたらしい。
何度目かの不完全な解毒剤の使用で彼は工藤新一だった頃の記憶が、ごそっとなくしてしまった。
しかし生まれつき賢明だった彼は、自分の中に誰かがいた事に、すぐ気付く。
そして、それが誰なのかも。
探偵のイロハは身体に染み付いていたようで、周りの人間に聞いたり工藤邸で調べたりと
新一の欠片を集めているうちに、俺の怪盗キッドの予告状も手に入れたようだ。
暗号を解き、ライバルと認めた唯一無二の存在に会えば何か思い出すかもしれないと。
けれど、その時、自分は事情を知りようもなく
唯一解ったのは、最高の好敵手が、ここには居ないという事だけ。
ただ、目の前には迷子が一人。
□鏡には置き去りの子供(新一+コナン)
元の身体に戻ってからというもの、頭の中だか胸の中だか腹の中だか知らないが
まるで胎児が母親の腹を蹴るように、アイツが時たま動きを見せる。
忘れかけた頃、肺と肺の間がチクリと痛む。
まるで忘れられないよう、釘を刺すように。
あの日、俺が投与されたのは毒薬ではなく、種だったのかもしれない。
そうして、産まれる事のない子供を孕んだんだ。
□いつかのはなし(新一+コナン)
その時が来たのです。
新一は喜ばしいような、苦痛を耐えるような、それでいて確固たる別離を覚悟した顔でやってきた。
後は俺が、あの指先程度のカプセルを飲み込めば全てが終わる。
お別れ、だ。
新一が腕を伸ばす、それが合図だった。
肩を抱く指先が「さようなら」と言う。頭を抱える掌が何より「ありがとう」を叫ぶ。
不意に彼の腕の中で浮かんだ願いに、自分でも笑いが込み上げた。
俺は、精神的にだけでなく
肉体的にも、この男から産まれていれば良かった
と、下らない事を、考えた。
□いつかのはなし(キッド)
瞳を閉じて想像する。
きっと美しい満月の夜。
警察も探偵も華麗にあしらって、ついに突き止めた魔性の石を優雅な手つきで破壊する。
呆気に取られる皆を前に怪盗紳士の名に恥じぬよう、流れるような仕草でハットを胸に、
最後のステージの終わりを告げ、厳粛な空気を纏わせ、お辞儀をする。
空を見上げれば天から聴こえる親父からの拍手。
今まで受けたどの喝采よりも誇らしく、自分は子供の頃のように笑って。
盗むべきものは、もう何もない。
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